HAGIBLOG

自転車とお菓子作り

猫のにちか氏

にちか氏は雄の猫である。名前はたかちゃんが付けた。「にちかちゃん」と言うより「にちか氏」と呼んでみたら語呂が良くて「にちかし、にちかし」とばかり呼んでいる。

にちか氏が家に来てもう3ヶ月くらいになる。

 

にちか氏は保護猫で、僕たちが猫を探し始めた時にちょうど保護猫の団体にやってきた2匹のうちの1匹だった。僕は最初に会ったときからどちらか選ぶならにちか氏かなと思った。なんとなく、より可哀想に見えたからだ。にちか氏はうずくまっていてほとんど動かず、孤独で悲しそうな目をしていた。もう片方は愛嬌もあったので、誰か他の人が飼ってくれるだろうと思った。

僕はそうなふうに考えていたけれど、選ぶのはたかちゃんに任せていた、そしたらたかちゃんもにちか氏を選んだ。

 

僕もたかちゃんも猫を飼うのは初めてで、猫が僕たちの生活にうまく馴染んでくれるのか、そんな心配も多少はあったけど、今のところなんとか一緒に暮らせている。でも全く問題がないわけではない。というか、問題はけっこうあって、にちか氏はなかなか困った子で、その対応に試行錯誤する毎日だ。


飼い始めてすぐに分かったのだが、大体においてにちか氏はあんまりお利口な猫ではないようだ。初対面では大人しく静かにしていたのだが、新しい環境に慣れるにつれ、その本性を表した。にちか氏は、とにかく素行が悪かった。

まず食べ物にも卑しい。あちこち食べ物がないか、落ち着きなく家中を漁って回る。いろんなものをひっかき回し、食いちぎって散らかしていく。ご飯の時間になり、大好きなカリカリを見せるともう激しくて、制止のしようもない。皿にあげるとあっという間に平らげてしまい、もっとくれと催促する。

最初は、お留守番のときにケージに入れようとしたら、ケージの中で激しく鳴いて暴れた(おまけに、鍵を掛けたはずなのにいつの間にか抜け出してしまい、僕の手作りケージはまるで役に立たなかったことが判明した)。結局、今はケージに入れることなく、なし崩し的に部屋の中で放し飼いにしている。

 

にちか氏は極度の甘えん坊で、寂しがり屋でもある。

僕たちが部屋を出て行こうとすると必ず後を付いてくる。また、出かける時に一人にさせておいて、しばらくして帰ってくると、もう大騒ぎだ。ものすごく大げさに鳴いて寂しさをアピールする。

他の猫に接したことがないのでよくわからないけれど、その様子はちょっと普通じゃないように思える。性格というより、もっと病的なものに見えなくもない。

にちか氏は、猫が増え過ぎて世話できなくなった、いわゆる多頭飼育崩壊の家庭から連れてこられたと聞いた。子猫のときに嫌な思いをしたとか、何かトラウマがあるのかなあ、と想像してしまう。

 

この前、にちか氏は誕生日を向かえた。2歳になった。

たかちゃんは、にちか氏のために猫用のケーキを買ってあげたのだった。にちか氏に甘いたかちゃんはよくおやつをあげたりするけど、僕は決められた量のご飯しかあげない。でも、今日は誕生日だから特別だ。

こういうわざわざ買ってあげたケーキに限って食べなかったりするんじゃないか、とか、反対に勢いよくがっついて、顔や足にクリームをたっぷり付けてそこら中ベトベトにしてしまうんじゃないか、などと余計な心配をしなくてはならないのが、にちか氏という猫だ。

そんな心配をよそに、食いしん坊のにちか氏はすぐケーキに飛びついてクンクンと匂いを嗅ぐと生クリームを舐めはじめた。

良かったなあ、今日は好きなだけ食べていいんだぞ、と思って見ていたら、にちか氏の目から涙がこぼれたのだった。にちか氏は泣いたまま一心不乱にペロペロとクリームを舐め続けた。

そんなにうれしいのか、にちか氏。そうか、いままでこんなふうに祝ってもらったことがなかったから、感極まって泣いてしまったのか、と思った。


でも猫がそんなふうに、感情で涙を流すなんてことがあるのか。たぶんないのだろうけど、泣いているにちか氏を見ているとその存在が愛おしくなった。

 

f:id:hggggg:20200712093548j:plain