HAGIBLOG

自転車とお菓子作り

前にしか進まない、後ろに進んだら大変だ

先月髪を切りに理容店に行ったときのこと、担当になった人が髪を切りながら「頭皮に湿疹ができている、けっこうひどい」と言うのだった。そういえば自転車のヘルメットをかぶっているときいつもより痒い感じがあったな、と思った。

「シャンプーは何を使っているのか」と聞くので「わかりません。ジムに備えつけてある奴です」とぼくは言う。すると店員は、それは良くない。それはリンス・イン・シャンプーだろう。そういうのは頭に良くない。シャンプーというのは油を取るものであり、リンスは油を加えるものである。そんな矛盾するものが一緒になっているおかしいと思わないのか。そんなものを使う限りハゲは避けられないだろう、と、おおよそそのようなことを言った。「当店ではとても素晴らしいシャンプーを扱っている。特別に売ってあげてもよい」と店員。動揺のあまりそのシャンプーを買った。

使用してみたところスースーと爽快感のある気持ちがいいシャンプーだった。よかった、これでハゲは免れた…とそのときは思ったのだが、後々になって考えてみると、湿疹の原因はジムの安いシャンプーを使っていたからなどではないように思う。おそらく、原因はわかっているーーストレスである。このところ一ヶ月ものあいだ非常に質の悪いストレス下におかれており、気持ちの休まる暇がない。

おまけに暑いか雨が降るかで自転車にもろくに乗れない。体力は衰えていくばかり。そんななかにあってDVDをノートパソコンで再生して映画を見ている間だけが、かろうじて息抜きと呼べる時間である。

最近見た映画。ロマン・ポランスキー『チャイナタウン』、アキ・カウリスマキ過去のない男』、カサヴェテス『チャイニーズブッキーを殺した男』、『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』(アキ・カウリスマキペドロ・コスタビクトル・エリセマノエル・ド・オリヴェイラによるオムニバス映画)、ハル・ハートリー『愛・アマチュア』。

いずれもおもしろくてよかった。カサヴェテスがもう本当に最高で全部見たいと思うのだが近所のツタヤにはないので残念。カウリスマキはどの映画も悲哀の漂うカウリスマキ調。『過去のない男』は暴漢に襲われ記憶喪失となった男の話だが、「人生は前にしか進まない、後ろに進んだら大変だ」というような含蓄があるようでない、でもやっぱりじんわりと沁みてくる言葉がたいへんよい。『ポルトガル、ここに誕生す』のビクトル・エリセの作品は、閉鎖した紡績繊維工場に勤めていた人々へのインタビュー。年老いたかつての労働者らが自らの人生を語る。

嫌なこともある 諍い 労働 でも報われることもある だから人生が終わりに近づいたら 自分の作品を見つめ直して完成したと言えることを願う