『燃焼のための習作』を読みました。堀江敏幸の習作なのかと読みはじめたら違っていて、小説内に出てくる美術作品のタイトルであった。探偵と助手と客の3者が、事件ともいえない何事かについて、あるいはそれとも結びつかないような些事について、あちらこちらへと移ろいながら言葉を交わしていく形で小説は進む。
本作の中で『河岸忘日抄』の主人公(探偵と知り合いという設定)に触れられる箇所があるのだが、この小説も好きな作品だった。フランスの河岸に係留された船に住んでいて、自由気ままな隠遁生活じみた雰囲気の漂う、それでいて人生に対するそこはかとない苛立ちや疲れなども含まれた小説だったと記憶している。どちらも読んでいて胸にじんわり沁みてくるというか、読むことの快楽だなあと思わされるのでして、著者の作品はけっこう好きでよく読んでいます。