高校の国語教師ブリュノとノーベル賞クラスの天才分子生物学者ミシェル、異父兄弟である二人の人生をたどる物語。たいへん面白くつらつらと読み進め、読後はため息しか出ないほどでした。兄ブリュノのエロチックな快楽を諦めきれず彷徨い歩く姿には非モテ中年男性の悲哀が、弟ミシェルの空虚な世界に向けられた達観した眼差しには、これまた非リア充を極めた中年男性の孤独が極めて鮮明に滲みでており、まさにこれから中年の域に足を踏み入れようとする私などは余計に胸を打たれる、というより抉られるほどの衝撃でありました。個人的には『カラマーゾフの兄弟』並に人生の参考書(?)にしたいと思える書。そして物語はミシェルの死後100年先へと続き、そこから俯瞰して見せるという作者ウエルベックの力技。圧巻とはこのこと。超絶名作だと思いました。再読したいです。
痛ましくも下劣な、猿とほとんど差のない存在でありながら、この種族は心の内に数々の高貴な願いを抱いてもいた。責めさいなまれ、矛盾を抱え、個人主義的でいさかいに明け暮れた種族、そのエゴイズムに限りはなく、ときにはとんでもない暴力を爆発させた彼らは、しかしながら善と愛を信じることを決してやめようとはしなかったのである。
- 作者: ミシェルウエルベック,Michel Houellebecq,野崎歓
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/01
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 187回
- この商品を含むブログ (97件) を見る