HAGIBLOG

自転車とお菓子作り

それは超絶に失敗作だった、と作者は語った。

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チーズケーキなんてどうやっても失敗しないだろうと、自分の技量もかえりみず高をくくっていたという。思いも寄らない悲劇は、往々にしてそうやって起こる。作者の創意工夫というか要するに素人の思いつき、それに勘違いとうっかりミスの三つが重なり、非常によろしくないものができたそうだ。

しかし、もう引っ込みがつかなかった。提出しないわけにはいかない。それでも意外にも意外であるということがあり得るかもしれないという一縷の望みをかけて、そっとテーブルの上に置いた。無情にも意外なことはなにもなかった。よろしくないものはよろしくない結果を招いた。そのときのことを、彼は「さっさと帰って寝たかった」と振りかえる。

これはもう、なかったことにしよう、ここにも何も書くまい、と、その夜まくらを濡らして決心したそうなのだが、いっときでもチヤホヤされ、おだてられ、気をよくした場があったこと、おそらくそんな経験に乏しい彼は、その思い出までぜんぶ忘れてしまいたくはなかったのだろう、結局のところ、その卓上の写真は掲載された。視覚と味覚が接続されていないことが救いである。

チーズが時間をかけて熟成するように、過去のものとなった記憶が変質化して、それほど悪くはなかったと思える日も、もしかすると来ないとは限らないではないか、最後に作者はそう言った。そんな日など来ないことは、まったくもって明白だった。