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HAGIBLOG

自転車とお菓子作り

ツール・ド・さくらんぼ2013

天気がよかった。良すぎるくらいに。空が青い。暑くはない。いや、少しは暑いけれども、日差しは真夏のそれとは違ってまだ穏やかだ。山に入ってぐんぐん標高を駆け上がればそれだけ涼しかったし、平地ではそれなりの速度で巡航しているから風が体を冷ましてくれた。

4人で列を組んで走行していた。本番は一人で走るもんだと思っていたら、知り合いのつてでチームで走ることになった。いつも一人でばかり走っているからチーム走行はいくらか緊張するものであったけれど、引っ張ってもらってずいぶん助られた。

さて、もうこれまでに100km近く走っている。乳酸も溜まってきたしケツも痛い。あとは登り区間はないが、でも脚はそろそろ限界に近づいてきた。前の人に離されないように、黙々とペダルを踏む。

 

それは、大江町から朝日町のワイン城へと向かうどこか、だったと思う。

 

「楽しそう!」

 

沿道の、若い女性が声をあげた。

楽しそう…? 言葉が耳に届いてから意味を理解するまで少し間があった。いまこの状況とはまるでそぐわない言葉に思われた。いやいや、苦しいんですよ。ぎりぎりなんですよ。

ちょっと力んでペダルを踏めば、即座に脚を使い切って走れなくなる。かといってこれより弱めれば、集団に置いてきぼりをくらう。その狭間の、ぎりぎりのところで、ペダルを踏んで踏んで、踏み続けている。汗が目に入ってしみる。苦痛で、顔がゆがむ。

苦しいし、ツラいし、痛い。ーーこれって楽しい、か?

ツールドさくらんぼ2013-月山湖

 

楽しかろうがそうでなかろうが関係なく、それこそ「楽しそう」に振る舞うのがSNSやブログの場なのだろう。私はこんなに楽しかったーー。楽しさ(を見せること)が目的化された場。

だから私は、6月1日に参加したツール・ド・さくらんぼという自転車大会の楽しさを見せつけるべく、精一杯ブログをしたためようとしているのだが、うまく書けなくている。(あろうことか、最初から「楽しさ」に疑問符をつけてしまった!)

自転車の記録の方法は、なかなか難しく、悩ましい。写真だのカメラだのというのは、本来的に自転車に乗るという行為にとっては妨げでしかなく、ましてある程度のスピードで滑走しながら片手でカメラを操作するとか、褒められた乗り方でもない(そのうちカメラ落っことすぞ)。

だから、今回は写真もほどほどでいいや、と思っていたのだが、しかし一方で、のちのブログ作成(=楽しさアピール)のためには、写真を撮っておかなくはならないという、相反する思惑が交錯していたのだった。結果、なんとなく中途半端な写真ばかりで…。

ツールドさくらんぼ2013-柳川温泉

 

最初の苦しみはもちろん葉山である。

これまでは登り坂なんか嫌いで嫌いで、とても走れたもんじゃなかったんだ。今年になって、というか、ツール・ド・さくらんぼにエントリーしてから、少しずつながら登りの道をコースに取り入れるようにしていた。そのおかげか、思ったよりは攻略できる感じだったが。

あれだけの容赦ない急斜面、自転車から降りて引いていく人も多かったな。追い抜くにあたっては、「こんな坂、わけないね」と、苦しい素振りもひた隠しにして優越感に浸りたいところだったが、内心は心配だったんだよね。もしかしてオーバーペースなんじゃないか。ここで頑張るのと温存するのとで、最後に笑うのはどちらなのか。まだ100kmくらい走るんだぜ…。

ツールドさくらんぼ2013-葉山

 

しかしまあ、人間の体なんて単純なもので、燃料さえ投下すればそれなりに走ってくれるものだ。各エイドでは食べたいだけ食べられたもんね。すばらしいことだ。

慈恩寺では、ところてん。葉山でおにぎり2個、たけのこ汁、ソーセージ、梅干し。月山湖で山菜そば、くるみ羊羹、バナナ。大井沢で、たけのこご飯のおにぎり。柳川温泉で、わらび、漬け物、お菓子、りんごジュース。朝日町ワイン城で、ぶどうジュース、バナナ。食っては走り、食っては走り、と。

 

そうだ、食べものを撮る、というのも、「楽しさ」を演出する手段なのであった。こんなもの食べました。いいでしょう。おいしそうでしょうーー。しかしそれすらも、(私にしては珍しく)熱心にはカメラを向けていなかったように思う。撮らないわけでもなかったけれども。

こんだけエネルギー消費しているんだから、体が欲している。食べものなんか、うまいに決まっている。

ツールドさくらんぼ2013-ぶどうジュース

 

「楽しそう!」

という言葉の響きは、瞬時にタイヤの摩擦音に吸い込まれていった。これが楽しいブログなら、「ゴールするのがもったいない」「もっと走っていたい」、などと表現すべきラストの区間に入っていた。疲れすぎていてそんなことは思わなかった。

最後の最後、ゴールしました! という写真は撮っておこうと、カメラをかまえてアーチをくぐったら、ゴールで待ちかまえていた大会理事長とのハイタッチをしそびれた。

ツールドさくらんぼ2013-ゴール

 

沿道には、しかしよくもまあ、見物客がいたものだ。最初だけかと思ったら、コース全域を通して、地元の人が家の前に出て、こちらを眺めて手を振っていた。素人がただ必死こいて自転車に乗っているだけだぜ。よっぽど暇なんだな。

道の先の方に人がいると思うと、そこまでは颯爽と走り抜けてちょっといい格好をしてみようか、などと思う。そしたらその先にも人がいる…。そんな感じで、どこまでも走ることができた。声援、本当にありがとうございました。おかげで完走できました。

まるで楽しげでない文章になってしまった。大会レポートでもなんでもないじゃないか。だけど、123kmも走るのは、苦しいものですよ、本当に。しんどい行程だった。   ただ、少なくともあの人は、「苦しそう!」とはいわなかった。たぶん、そういうライドだったのだ。

ツールドさくらんぼ2013